そして 何時か 忘れられ 失われる であろう 何か 或いは 忘れられる 事で 別の 何かに なる かも知れない 何か

誰が撮ったのだろう。手前には焼け跡の残骸が残り、彼方に小学校の校舎らしきものが見える。
時間帯はいつなのだろう。曇り空なのだろう、陰もなく光もないフラットな風景だ。

火は本願寺の向こうから起こり、やがて頭上にも焼夷弾が落ちてくる。笛を吹くような焼夷弾の落下音。炊きかけのご飯をお釜ごと防空壕に放り込み家財を積んだリヤカーを引き逃げたが、じきに渦巻く火炎に放り出すことになる。燃える人々。燃えながら強風で路上を転がる老婆。先に逃げた家族は何処にいるのか。神谷バーの地下室は満員で、這々の体で松屋デパートの地下に逃げる。じきにそこも煙が満ち、地下鉄のホームに追われる。そこで偶然、家族と再会できた。一晩をそこで過ごす。

川向こうでは、その日に疎開を予定していた一家が逃げまどっていた。すでにまとめていた荷物を運び出すと、たちまちそれを誰かが奪ってしまう。盗られまいとしているうちに周り中が火の海になる。誰かが背負った奪われた布団にも火がつく。先に逃げた家族を追って行くも、すでに落ち合う場所も燃えている。 翌日、川面に死体が浮かぶ土手で偶然にも無事だった家族と会うことが出来た。 数日後、片付けのすすむ言問橋を歩くと何かが大量に転がっている。持ち主を亡くした蝦蟇口の口金だけが散乱していた。

誰が撮ったのだろう、何時撮ったのだろう。焼け跡に立つバラックだ。着物から少なくとも夏前であることは判る。
トンビに帽子をかぶっているのは祖父に間違いない。側にいる国民服姿と思しき影は父だろうか、叔父だろうか。
すでに消えかけた一枚の写真。

陰もなく光もないフラットな風景だ。時が止まったような風景だ。
だが、それは決して夢ではなく 確かにあった。

手前には焼け跡の残骸が残り、彼方に焼け残った小学校の校舎が見える。
その時、どのような風が渡り、どのような音が聴こえたのだろうか。